桜の季節が終わり、新緑の季節が到来した。庭では色とりどりの花が開き、大げさではなく百花繚乱の体を成している。ニオイイリスに加えて、ジャーマンアイリスも咲いた。さらにイチハツが続けば申し分ないのだが、今までイチハツと思っていた花が、ニオイイリスと分かってしまったことで、それは望むべくもない。

近頃のデジカメは性能が向上していて、AUTOあるいはプログラムモードの設定しておけば、初心者でもそれなりの写真が撮れてしまう。オープンカレッジの自己紹介の時、去年受講して今年再度挑戦した人が、こんなことを言った。
「写真講座を受講していた時は、マニュアルで撮影していたのですが、終わったとたん、またAUTOに戻ってしまいました」
それもむべなるかな、なのである。AUTOでも満足すべき写真が撮れるのだから、わざわざ面倒な設定にして、苦労して撮ることはないのである。とは思うものの、いつまでもAUTOに頼っていては、高価なデジカメが宝の持ち腐れとなってしまう恐れがある。
そう思ってせっかく写真講座に通い始めたことでもあるし、庭に下りて花を撮る練習をしてみることにした。最初はプログラムモードで、そのあとは露出優先モードで、絞りの値をいろいろ変えて試し撮りをしてみた。


午後は、イチハツを探しに佐倉の城址公園に行ってみた。時期がまだ少し早くて、咲いている姿を探し出すことはできないかもしれないが、葉の形でイチハツであると判断できるかもしれない。そう思って出かけたのだが、結局探し当てることはできなかった。ただ、収穫はあった。
園内に、○○造園と刺繍された作業着を着たおじさんがいたので、
「イチハツは、園内のどこかにありますか」
と尋ねたところ、しばらく考えて、
「くらしの植物苑に行ってみましたか」
と教えてくれた。ただ、そこにイチハツがあるかどうかは分からないということだった。
「くらしの植物苑」は、歴史民俗博物館から歩いて10分ほどのところにある。入苑料100円で見学できる。受付で、イチハツのことを訊いてみると、
「イチハツはないですねー」
ということだった。そして、
「イチハツは、ちかごろ見なくなりましたね−、なつかしい感じがしますね」
と言うではないか。なにしろあの子規庵にもイチハツはないのだから、その花を見られるところは、極端に減ってきているのかもしれない。
苑外に出たところに駐車場がある。そこにネコを発見して、よい被写体に出会ったことを喜び、撮影に没頭しているうちに夫人の姿が忽然と消えてしまった。さて、どこに行ったものやらと、ネコに未練を残しながらも捜がしに行くと、見知らぬ女性と親しげに立ち話をしていた。

近づいてそれとなく話に耳を傾けると、どうやら知り合いのようだった。庭のジャーマンアイリスを譲ってくれた人らしい。紹介されたついでに、
「イチハツを探し求めて来たんです」
などど余計なことをつい口走ってしまうと、思いがけない言葉が返ってきた。その人に家には昔イチハツがはびこっていて、母親が株を少しだけ残して、すべて抜き取ってしまったというのだ。少なくはなったが、現在でもイチハツはあるということだった。
イチハツは薬草として使われていたこともあり、去年訪ねた小石川植物園では、薬草園の中で咲いていた。「くらしの植物苑」にも薬草を栽培している区域があったので、一通り見て回ったが、イチハツはなかった。薬草としての用途も終わり、観賞用としてはジャーマンアイリスやニオイイリスの方が好まれ、イチハツは見向きもされなくなったのだろう。この分では、そのうち絶滅してしまうことになるのかもしれない。
posted by 里実福太朗 at 00:00|
里ふくろうの日乗