風呂にも入らず、一応市販の風邪薬を飲み、いつもより早く床についた。そして翌朝、いつもより早く目が覚めた。昨夜の症状はどうなったかというと、なんときれいサッパリ消えていた。クシャミも出ず、鼻水もたれない。うれしいことではあるが、これは一体どうどういうことなのだろうか。風邪でも花粉症でもなかったのだろうか。
さて、その日は前回と同じ歩き方では面白みがないので、逆方向でまわることにした。つまり、押上駅を出てから東武線の踏切を渡り、高架下を西に進み、東武業平橋駅に向かって歩みを進めたのだ。
東武線の踏切あたり



踏切を渡り、線路沿いを歩いて行く

写真を撮っていると、見知らぬオジさんが話しかけてきた。登山用のハットをかぶり、少し小さめの黒いジャンパー着ていた。年齢不詳という感じで、若く見えたりかなりの年のようにも見える。一生懸命話をするのだけれど、早口でよく聞き取れない。なんとか聞き取ろうとしても、時々単語が分かる程度で文脈がつかめない。いくつか聞き取れた単語をつなぎ合わせて編集してみると、こんなことを言っているようだった。
『こっちは、人が少なくていいね。向こう側はもっとよく見えるけど、人が多いね。それに車が通るから気をつけないとね』
「向こう側」というのは、スカイツリーの南側のことだろう。そのくらいのことは分かっていたが、あまりにも一生懸命話しかけてくるので、
「そうですか、よくご存じですね」
無視することもできず、そう言っておいた。するとそれに気をよくしたのか、またよく分からないことを言い出した。
『まア、毎日来ているからね』
これも何とか理解した彼の言葉だ。
「毎日ですか。近くにお住まいなんですか」
『ちょっと行ったところ、押上なんだ』
さらにいろいろと話しかけてきたけれど、いつまでも相手をしているわけにもいかず、別かれるきっかけを作るために、カメラをスカイツリーの方に向けた。カメラを構えながら、彼の方にチラッと目をやると、私の様子をジッと見つめていたが、そのうちどこかに行ってしまった。
「安全地蔵尊」には、新しい花が活けてあった。


地蔵尊の道路を隔てた反対側に、梅の花が咲いていた。花の間に動くものが見えたので、目を凝らしてみるとメジロだった。こんなゴミゴミとした狭い場所に咲く梅の花を、よく見つけてものだと感心して見入っていると、梅の枝に半分に切ったみかんが挿してあるのだった。


この梅の花が咲く道の角を曲がると、業平橋駅が見える。
