神楽坂のアユミギャラリーでは、昨日(2010-09-01)まで、英国の写真家・ALAN GOLDING氏の写真展が開かれていた。夜、ちょっとした会合の予定があったので、その前に足を運んでみることにした。
http://www.ayumi-g.com/ex10/1030.html引き戸を開けてギャラリーの中に足を踏み入れたとき、ゴールディング氏は南向きの出窓の前で、ノートパソコンの画面に見入っていた。日本語はどの程度話せるのだろうか、英語で挨拶した方がいいのだろうか、簡単に「hi」とでも言っておこうか、そんなことを考えていると、彼の方から、
「こんにちは」
ときれいな発音で声をかけてきた。
大小さまざまな写真は、さまざまな工夫を施され、展示スペースの隅から隅まで所狭しと並べられていた。展示されていた作品の何点かは、彼のホームページにも掲載されているものだった。作品傾向をつかむには、そのホームページにアップされている写真を見るのが一番手っ取り早いだろう。
http://www.alangoldingphotography.com/gallery.htm彼がパソコンに見入っている席の背後にも、写真は展示されていた。順次見て回っていき、その場所に近づいた時、彼は何も言わずに席を立ちそこを離れていった。彼の無言の配慮のおかげで、すべての写真をじっくりと時間をかけて見終わることができた。
テーブルの上に、案内用のポストカードが積まれていた。もちろん無償で配布するためのものなのだろう。断りなしにいただいてもかまわないと思われたが、念のため声をかけておくことにした。
「これをいただけますか」
さきほどきれいな発音で「こんにちは」と言っのだから、日本語はある程度分かるのだろうと勝手に思い込んでいたが、彼は空中に視線を泳がせたまま固まっていた。どうやら日本語はほとんど分からないようだった。
困ったことになった。ポストカードをもらうためには、英語で何と言ったらよいのだろうか。ポストカードを左手で持ち、右手の人差し指で自分を指してみても、彼の理解の手助けにはならなかった。そこで、
「give me」
と言ってみたら、彼は大きく頷いた。そして、テーブルの上に無造作に置いてあった数葉のL判の写真を指さした。それも持っていっていいよ、ということのようだった。数葉の中から、海岸を歩く二人の女性が写っている写真を選び取って、いただくことにした。

なんともありがたいことで、炎暑の中、足を運んだ甲斐がああったというものだ。
「ありがとうございました」
と礼をいうと、
「どういたしまして」
と、澄んだライトブルーの目をこちらに向けて、またきれいな発音で言葉を返したのだった。
posted by 里実福太朗 at 23:00|
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