2013年06月13日

あちらの世界からこちらの世界へ

自由人の誕生月は6月だそうだ。誕生日の前日に公園を訪れて彼に会った時、外見の印象が大きく変化していた。いつもは無精ヒゲをはやし、頭髪もボサボサの状態だったのに、髪は短く刈られヒゲもきれいに剃られていた。いわばスッピンともいうべき顔になっていたのだ。そんな顔は初めて見たような気がする。

「ずいぶんサッパリしましたね」
と声を掛けると、前の日曜日に無料の散髪サービスがあって、それを利用したということだった。場所は日本橋方面のとある場所だと言っていた。月に一回サービスデーがあるらしいが、今までそんなスッピンの自由人は見たことがなかったのだから、そのサービスを受けたのは今回が初めてだったのだろう。

今回に限って、どうしてそのサービスを受けたのだろうか。彼の心中を推し量ってみれば、やはり明日が誕生日だということと関連性があるのかもしれない。

俗世間を離れて隠遁者としての生活を始めてから、もう四〜五年は経つに違いない。このまま公園での生活を続けていけば、いずれは老いさらばえて死地へと赴くことになってしまう。彼の亡き後、その場所には立ち入り禁止の札が立てられ、その周りはロープで囲まれることだろう。

しかし明日の誕生日を境に、そのような将来に変革をもたらすことができるのだ。自由人が住むあちらの世界からこちらの世界へと、戻って来られる可能性が生まれるのだ。この誕生日はそういう意味で、自由人にとって一大転機となるはずの重要な日なのだ。そういう大切な日を、どうして隠遁者然としたヒゲ面で迎えられようか。

スッピンの彼は、柔和な表情を見せていた。彼の将来を照らす光が、表情を明るくしていたのかもしれない。
「あした誕生日なんだよ」
「そうでしたね、おめでとうございます。これ、誕生日のお祝いとして…」
「いや、それは…ケーキでも買うことにします」
お酒を飲まない彼は、甘党なのだろう。
「○○さんがこの公園からいなくなっても、私は猫がいる限りここに来ますよ」
「オレも…ここには世話になったから」

これからカン集めの仕事があるということなので、いとまを告げて彼の後ろ姿を見送った。猫背が一段とひどくなっていた。先年ヨッパライに足蹴にされた腰に、痛みがまだ残っているのだろうか。

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posted by 里実福太朗 at 23:50| 里ふくろうの日乗